はじめに・・・
『地球生命圏−ガイアの科学』(工作舎より邦訳あり)という本が、僕が当時手に入れることのできた、数少ない「ガイア情報」の一つだった。 この『ガイア仮説』の提唱者であり「GAIA - A new look at life on Earth」の著者である ジェームス・ラブロック (J.E.Lovelock)博士は、高校生になったばかりの僕にも理解できる内容で、素晴らしい地球観を与えてくれたのだった。というわけで本文太字部分はラブロック博士の仮説を引用している。
彼はNASAの火星生命探査計画に参画し、「果たして火星には生命が存在するのか?」という、いいかえれば「宇宙空間において、実際地球以外の星に生命体が住めるのだろうか?」という永遠のテーマを研究したのであった。
地球に最も近い天体は月である。
僕の生まれた1969年に、人類は月に足跡を残した。
そこは、わずかに薄い大気と、砂が広がるばかりの漆黒の空間であった。
それまでSF作家などがさまざまな月世界や宇宙人を想像していたが(僕の小学校の図書館には、腐るほどのSFがあり、むさぼるように読んだっけ!)そのどれもが月においては空想であったことが証明されてしまったのである。
ならば、火星や金星には? と考えるのが人間である。
さまざまな観測や研究により、金星は太陽に近く、灼熱の世界であること、火星は地球より大きい軌道を公転しているため、とっても寒い世界であるらしいことも分かってきた。 同じ太陽系の惑星で、地球だけが青い海を持ち、唯一生命が存在するらしいことが次第に確実になっていった。
「なぜ、地球だけがこんな姿で存在しているのか?
なぜ、大気組成のバランスがこんなに不安定な状態で存在するのか?」
ラブロック博士の探求の原点は「地球の大気」だった。現在、日々のニュースなどで環境問題についての話題は途切れる様子がない。日本の高校生の僕は、そんな「地球規模の大問題」について考えたことも、また考えるキッカケもなかったので、そのころ海の向こう側では、すでに「グリーンピース」のような自然保護団体が活動していたことも知らなかったのである。
いまや環境保護運動、リサイクル運動など、地球環境について人々の危機感が高まり、2次的にそれらの運動すら批判されるような時代になった。文明の発展とともに、人々の価値観やライフスタイルが変わってゆく。 政治、宗教、産業、教育... すべての概念は時とともに変わってゆく。
ただ一つ、この年に僕が強烈なインパクトを受けたのが、
「地球はそのすべてが一つの生命体として生きている! のではないか? 」
というこの仮説であった。
ラブロック博士の提唱する『ガイア仮説』の「ガイア」という言葉は、いまでは地球環境に関わるキーワードとして耳慣れた単語になってしまっている。しかしその由来について知っている人はあまりいないのではないかという老婆心から少し解説をすることにしよう。
辞書などで試しに「GAIA」をひいて調べてみると、
とある。「ギリシア人たちが遠い昔<彼女>をガイア(Gaia)と呼んだよう」に、母なる大地という考え方は地球を考えるでは普遍的な概念だったのだろう。ラブロック博士は<地球>を
「女性形固有名詞」
で命名したのであった。 (ちなみに、博士のセイロンの自宅庭にはガイアの彫像が飾られているのを写真で見たことがある)
ある仮説を立てる場合、メタファーとしての<名詞>は非常に効果的に作用することがある。「男性形固有名詞」である僕は、博士の選んだガイアという言葉に恋をしてしまったらしかった。
書店で初めて買った「一目で難しそうな専門書だとわかる書物」を3日がかりで読破できたのは、僕の「速読法」の成果ではなく、あくまで論理の流れのスムースさのためだと思っている。内容は完璧に「科学論文」であり、それまで宮沢賢治にハマっていた高校1年生には少し難しいものだった。字も小さいし、イラストなんかもほどんどなく、
「大気組成の表」や「酸素濃度と着火温度の関係グラフ」
などがたまに入っているだけで視覚的に面白いものとはいえないかもしれない。しかし、そこには「すっごくデッカイ生命体」の秘密にせまった冒険の書がかかれていることに間違いはなかった。
その秘密とは、
地球は自己調整機能を持った有機的な存在であり、
ガイアはその1つの細胞である人類の目を通して初めて自らの美貌を見た。
ということである。 結論からいうと、ガイアにとって人間は「ガン細胞」のようなものかもしれない。ジワジワ広がって侵略してゆくその「細胞分裂」の速度たるや凄まじいものである。
しかし鏡のない宇宙空間で自分の姿を見るのに約45億年もかけたあげく、ガン細胞かもしれない人類によって、やっと自分の姿を見れたとなると僕も「人類の一員、ガイアの一つの細胞」として少しは安心できるというものである。高2の春に引っ越すまで、自宅の棚に無造作に突っ込まれていた新聞の一面写真の素晴らしい映像に、僕は改めて感動したのであった。
「アポロの月面着陸」の時の写真である。
有名な「月の砂漠に旗を立てる地球人」の写真と一緒に、たしか「月から見た地球」の写真があったと思う。いま考えると、引っ越しリストの一番最初にあの「当時珍しかったであろうカラー刷り」新聞を入れておかなかったことがとっても悔やまれるのであるが...
(そのうちTHE-NET上でリアルタイムで見れるようになるさ!)
僕はこの地球のことに少しずつ興味を持ちはじめたのである。
<以下、次回へ続く...>
Copyright YOSHIOKA,Hidenaga 1996.11.14
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科学者・発明家・元NASA火星生命探査計画共同研究者。
主な発明はガス・クロマトグラフィー「電子捕獲検出器」など。気体に含まれている様々な化合物のスペクトルを分析し、成分をグラフに表わすことができる。大気などの分析に大きく貢献した発明である。著書に「地球生命圏 - ガイアの科学」(工作舎)などがある。
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